? それで、ソロになって1stアルバム「Gravitic」を作りだす。
- ソロになって、表現も深度を増していくというか、全部自分でやってみる上で、何かお手本になった作品なり、それこそ映画だったりはありました?
M 洋楽だったらまあずっとEMINEMもモチロンそうなんすけど、色々な表現を見て「うわーすげえ」てのはあるけど、直接的に影響されると言うよりかは、まあその時吸収していた色々が層になって蓄積されていった感じすかね。
- カルマは漫画とか本とかからインスパイアされたりっていうのはあります?
呂 俺は音楽っすけどね。漫画とか全然関係ない。映画も音楽への直接的なモチベーションにはならない。
自分の作品にするために本を読んだり映画を観るっていうのは、自分のラップを書くために他人のラップを聞くっていうのと一緒だから、要はパクリじゃないすか。それは不純だし。
M だから僕もこの2ndアルバムを作った時、1stと全く違うのは、聴く音楽が全然違います。あの頃と今とでは。
HIP HOPはあまり聴かなくなって、FUNKとかJAZZとかバーって聴き始めて、ずっと。それの蓄積でできた2ndかなーとは思いますね。
- じゃあもう1stの頃はそんなに色々考えずに作り出したんですか?影響とかお手本とか無しで。
M 1stの時はもうガムシャラでしたね。「とりあえずソロでやりたい!」というのがあって。色々な重力があったんで、そういうアルバムを「ソロで出す!」って。
- それで重力がテーマというか、アルバムのタイトルになったんだ。映画とかの影響かと思ってました。「ゼロ・グラビティ」とか「インターステラー」とかちょうどそのくらいの時期だったので。
呂 俺は元体操選手って聞いたからそこからかなって。「月面宙返り」とか「モリスエ」みたいな
M ああ、それもあるっすね。体操からの、重力つながり。でもあの時期は本当大変でしたよ。
プロデューサーとかもいなかったし。全部自分で。
- それこそトラック選びから、リリックの書き方とかほぼ全部?トラックは結構渋いのを選ぶ印象がありますが。
M トラックはとりあえず、トラックメイカーの方々に「なんかください。」って言って集めた中から、「あ、これカッコイイな」と思ったやつを集めたのが1stですね。特に統一感を狙うとかも考えてなくて、手に入ったものから好きな感触のやつを選ぶという感じで。
呂 トラックメイカーに「こういう感じのください。」とか注文するわけじゃなくて?逆にトラックメイカーから「MAKERこういうの作ったけど、どう?」とかあるんかな。
M いや、もうとにかく「なんかあればください。」みたいな。
呂 そういえば知り合いたての頃、トラックがないって言ってたもんね。
- リリックは?ソロになって結構変化があったと思うんだけど、どうやってああいう独特なリリックが生まれたんですかね。
実はカルマには昔からちょいちょい聞いてて。すごい曲書いてきたら「あれ、どうやって作ったの?」って。だいたい答えが「車乗ってる時にパパッと書いて」みたいな返事で。「なるほど、種も仕掛けもなくて参考にならんなあ(笑)」ってなるんだけど。
M 1stの頃は、、、んー感覚っすね。フロウやフックやメロディも含めて。サビ先行の時もあれば、トラック先行で作る時もあるし。
呂 なんかバースのつもりで書いてて、8小節くらいで区切りがいいと「あ、これこのままフックにしよー」みたいな時ない?
M うん。あります、あります。意図せず自然に。
- じゃあ1stアルバムはホント、手探りで、感覚で、センスで、ガムシャラに作ったと。そうか、リリックにはだいぶこだわりがあるのかと思ってました。
1stにもその片鱗はあったけど、この2ndを聴いて、個人的にはBRON-Kの「奇妙頂来相模富士」とか鬼の「獄窓」とかに通ずる叙情性というか、詩的な高度さがあると感じたんだけど。ボキャブラリーの多さとか、表現する時の繊細さとかが。
M いや、それ申し訳ないですけど2枚とも聴いてないんで、、、
- そうなんだ!意外。この辺の作品から連なる系譜で生まれてきた「さそり座ストリップ」だと思ってました。じゃあなんだろこの独特な表現は?すんなり入ってくるけど、よくわかんない、当たり前のことを自分だけの言葉で言い回す感じ。カルマもそうだけど。語彙が多いとか本を読んでいるとか、そういう違いなんですかね。
呂 それはでもこの歳のラッパーなら当たり前のことで。確かにあの人たち(鬼、BRON-K)は言葉をたくさん知っていると思うけど、俺は特別自分が知ってるとは思ってなくて。逆に他のラッパーが知らなすぎでしょって思う。みんながラップで使ってる言葉を使ってるだけで。普通の社会人と話してると、ラッパーよりよっぽど言葉知ってますよ。
MAKERとかは同じ目線というか、こっちこそがまともで、他のラッパーが幼稚な言葉使いをしている感覚。
例えば、ここにリンゴがコンってあったとして、それを「リンゴ」って言っちゃうか、色やサイズや鮮度を言ったりとか、分かりもしないのに味のことまで勝手に「甘いリンゴ」って言っちゃうとか、そういうディテールの細かさで変わってくる。
それでも、リンゴを「リンゴ!」って言っちゃえるのはKOHHなんすよ。ただ、その代わり、そのものズバリを言うにしても何を言うか選ばないとただの幼稚な作品になっちゃう。
- KOHHとかTRAP系というか、あえて日常で使う言葉を多用するスタイルは、最近多いと思うんだけど、アトランタのラッパーみたいな、ああいうスタイルにも特に意識はしてないですか?
M いや、全然意識してないです。
呂 あれができるのはホントに選ばれたヤツだけで。あんなこと中々できない。それを真似して失敗してるヤツはたくさんいる。
M んーだからKOHHにしかできないモンがあるし。でも、あの分かりやすさは、若干ちょっと「これは勉強するべきなのかなー」と思ったりしましたね。あの分かりやすさも大事だなと。
呂 答えだけを言っていくっていうスタイル、あれは中々できない。
- 逆に難しく言うというか、文学的に特化したスタイルは?ポエトリー系とかのアーティストも増えてますが。
M ポエトリー系はもう大っ嫌いです(笑)。俺ああいうのって結構誰でもできると思うんすよね。
呂 誰でもできるとは思わんけど純粋にカッコ悪いのが多い。
M だからそういうラッパーが増えて欲しくない気はしますね。
- 海外のアンダーグラウンドなHIP HOPの中でもフリーキーだったりアヴァンギャルドな人たちからの影響は?フックの独特なノリ方とか、リズムを自由に解釈した感じが近いと思うんですが。変則的なフロウやドープな心地よさが。
M その変もあんまり聞いてないし意識もないですね。なんだろう、ドープでカッコイイのはわかるんですけど、影響はされてないと思います。
呂 俺は、MAKER聴いてて、やっぱり「唄が上手い」ってさっき言ってたけど、リズムの解釈がすっげえ細かいと思ってて。「1、2、3、4、」よりもっと細かく取ってて、そこを踏み越えたり細かく踏んだりとかやってる。
あれはなんだろう、ビート感覚がない人はCAMPANELLAのこととか「オフビート」って言ったりするけど、余裕で乗ってるし、当たり前で乗ってるし。わからないぐらいより細かくビートに乗ってるのに。
で、MAKERもめっちゃ言葉数を多くして一見変則的に聞こえるんだけど、全部綺麗に乗ってるし、どこも踏み外してるとこはないと思うし、俺は。ビートに対する解釈の解像度が高いからそうなる。
- CAMPANELLA の話が出たところで、NEO TOKAI シーンって今すごく注目されているんですが、ここの距離感はこのぐらいがちょうどいいんですかね?付かず離れずというか。レコード屋的にはガッツリ食い込んでくれると同じコーナーで売りやすいんですが(笑)
M 1stの時はPVの編集とかジャケットはRCのATOSONEさんがやってくれたりとか、JCPの鷹の目くんがミキサー/エンジニアで参加したりとか、よくしてくれてましたが、もう自主でレーベルも作って全部自分でやっちゃってるんで。
呂 自分でできるノウハウがあるんだったら絶対乗っかるより自分でやった方がいいし、この距離感がいいと思う。
- 確かにフィーチャリングとか共演ライブとかあれば、こっちで文脈作って売り出せちゃうってのもあります。NEO TOKAIシーンの無視できない「郡上のラッパー」として。YUKSTA-ILLがFNMNLの企画でやった「NEO TOKAIが生んだ10作」の中に1st「Gravitic」も入っていますし。
呂 変にくくりに入る必要もないし、サポートが必要なら言ってくれれば、それはするけど。頼るなら音楽的に追い越してからのがいいよ(笑)。孤軍でやって、MAKERが無視できない存在になったら自然に「一緒にやるぞ」ってなるだろうし。
M まあ、でも自分でアルバム作ってみて、「誰か1人ダメ出しできる人間がいた方がイイな」とはちょっと思いました。今回のアルバムの場合はほぼ誰もいなくて、とりあえず自分がやりたいことをバーっとやったんで。
呂 でも1人でそれやったなら大したもんだよ。
- 僕も個人的に2nd聴いて思ったのが「1人でできるMAXを作ってきたな」と。集大成じゃないけど、出し切った感じはあると思いました。これ以上のステージに行くなら協力者が必要なのかもしれないですね。
呂 でもねえ、いないよそんな人(笑)
M いないすよね(笑)。だからJCPの鷹の目くんの存在がすごい羨ましいなと思います。
呂 鷹の目はなんにも口出ししてこないよ。売れても売れなくてもとりあえず「出せ」と言う。出さないと話になんないって。
- 僕も個人的にDJやってて、鷹の目くんが観に来てくれた時に、彼が反応するかどうかが結構重要なんですが、、、
呂 あ、でもそれは、ある。バース録り終えた後に、たまに鷹の目が「イイっすね」って言うと(笑)
M 反応があるかないか、ちょっとコワいですよね(笑)
呂 基本ないけどね。このバース要るかなとかで迷ったりしてると「要らないんじゃないですか」くらいは言ってくれるけど。
- 本当に良かった時しか褒めないし、かといってケナさないから、反応があるだけでありがたいというか。実際、みんなから社交辞令の「良かったよー」が多くても、自分があまり納得できてないと鷹の目くんからは反応ないし、たまに鷹の目くんから「今日めちゃヤバいすね」って言われた時のプレイは、後で思い返すと、ポイントになるようなことをしてた日だったりするんですよね。
M 別の意味で恐ろしいですよね。名古屋で1番コワいかも(笑)
ライブしてる時に見えるんですよね。鷹の目くんおるわ!って。あの人の見抜く力が恐ろしいです(笑)